第67巻第2号(令和7年4月)

第67巻第2号(令和7年4月)特集:インフレ下の海外不動産市場

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第67巻第2号

特集:インフレ下の海外不動産市場

転換期を迎えた米国不動産市場
-オフィス・商業施設・物流施設・賃貸住宅・持家住宅の各市場の現状と注目点-
US Commercial Real Estate Trends

株式会社三井住友トラスト基礎研究所 海外市場調査部 主任研究員 風岡 茜

 米国では、2022年3月から2023年7月にかけてインフレ抑制のために急ピッチで利上げが行われた結果、長期金利とキャップレートの上昇、不動産価格の下落が起き、取引市場の停滞が続いている。しかし、2024年9月から12月にかけては、インフレ鈍化に伴い利下げが行われ、長期金利が高止まる中で取引市場は底値を探る動きに変わり、足元は転換期を迎えている。本稿では、米国のオフィス市場を始め、主要アセットの現状を概観し、今後を見通す上で重要なポイントを提示する。また、住宅流通市場のトレンドについても触れる。

【キーワード】 米国商業用不動産、オフィス、商業施設、物流施設、住宅
【Key Words】US CRE, Office, Retail, Industrial, Multifamily

フランクフルト・ロンドン・パリ
-インフレ下の各国不動産市場事情-
Frankfurt, London, Paris
-Real Estate Markets under Inflation-

一般財団法人日本不動産研究所 研究部 上席主幹 西岡 敏郎
 一般財団法人日本不動産研究所 研究部 研究員 母 棟源

 英・仏・独の不動産市場を概観すると、新型コロナ及びロシアのウクライナへの侵攻以降、各国でインフレが発生し、中央銀行の利上げに伴い不動産投資利回りも上昇し資産価値の下落を招いた。特にオフィス需要はリモートワークの普及等により減少傾向にある一方、物流施設、賃貸住宅への投資需要は堅調である。賃料は多くのセクターでコロナ禍以前より下落しているが、プライム物件では上昇傾向にあり二極化が進んでいる。ESG不動産投資への関心は、短期的な資産価値回復志向から相対的に低下しているとの見方もあるが、機関投資家はESG項目について高い水準を要求しており、ESG投資自体が後退しているわけではない。木造建物投資への関心は高まっているものの、初期段階にあり、建築物のエネルギー規制や木造建物の安全性への理解が促進のカギになる。

【キーワード】 インフレーション、新型コロナ、ロシア・ウクライナ戦争、ESG 投資、木造建物
【Key Word】 inflation, COVID-19, the Russia-Ukraine war, ESG investment, timber building

インドの不動産市場動向
-新興経済大国インドの不動産市場の分析-
An Overview of Recent India Property Market
-An Analysis of the Real Estate Market in Emerging Economic Powerhouse India-

一般財団法人日本不動産研究所 国際部 主幹 松浦 康宏
 一般財団法人日本不動産研究所 国際部 浅沼 美尚

 本稿では、インドのデリー首都圏とムンバイの主要なサブマーケットを取り上げ、特にオフィスやコンドミニアムマーケットに関するそれぞれの特徴や需給動向、価格動向を解説している。また、新型コロナ禍の影響やインフラ整備の進展がインドの不動産市場に与える影響についても言及している。

【キーワード】インド経済成長、インド不動産、デリー、ムンバイ
【Key Word】 India Economic Growth, India Real Estate Market, Delhi, Mumbai

調査

山林素地及び山元立木価格の動向
-2024年調査結果をふまえて-

佐藤 修

 当研究所が2024年10月30日に公表した2024年3月末現在の「山林素地及び山元立木価格調」によると、ウッドショックの収束後、山元立木価格は前回調査の大幅な下落から桧は若干持ち直したが、杉・松は低下が継続した。素地価格は用材林地は低下が若干拡大し、薪炭林地は微増が継続した。本稿では、「山林素地及び山元立木価格調」の調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格

田畑価格及び賃借料の動向
-2024年調査結果をふまえて-

佐藤 修

 2024年10月30日に「田畑価格及び賃借料調(2024年3月末現在)」を公表した。米価が上昇を継続し、田賃借料及び田価格の下落幅は縮小した。本稿では、公表した調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】田畑価格、田畑賃借料、米価

最近の国際不動産価格・賃料の動向について
-「第23回 国際不動産価格賃料指数」の調査結果(2024年10月現在)をふまえて-

吉野 薫

 当研究所は「第23回 国際不動産価格賃料指数」(2024年10月現在)の結果を2024年11月29日に公表した。同指数は世界15都市のオフィスおよびマンションを対象に、その価格と賃料の半年ごとの変動に基づいて構成されている。2024年4月調査からの半年間の変動を振り返ると、オフィス価格は4都市で上昇、3都市で横ばい、8都市で下落した。オフィス賃料は7都市で上昇、3都市で横ばい、5都市で下落した。マンション価格は8都市で上昇、1都市で横ばい、6都市で下落した。マンション賃料は11都市で上昇、4都市で下落した。このところ多くの国・経済圏で物価高を経験した。その一方、不動産の賃料や価格が物価と連動して上昇したとはいえず、「不動産のインフレ耐性」を盲信することが不適当であることが明らかとなった。今後も政策金利の引き上げが継続すると見込まれる日本の不動産市場の先行きを占う上で、物価高と金利上昇が日本に先んじた諸外国の例から得られる教訓は大きい。ただし諸外国と日本との相違にも留意が必要である。

【キーワード】国際不動産価格賃料指数、オフィス価格、オフィス賃料、マンション価格、マンション賃料、各都市の水準比較

論考

暗黙知としての不動産専門家の建物外観評価に対するAIの適用と不動産価値との関係
-J-REITのオフィスビルとマンションを対象として-
Application of AI to Experts’ Sensory Evaluation of Building Façade and Its Relationship to Property Value For J-REIT Office Buildings and Condominiums

東京都市大学 都市生活学部 准教授 太田 明
 東京都市大学大学院 環境情報学研究科 廣井 駿
 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授 高橋 大志

 本研究では、人工知能(以下、AI)の画像認識技術を用いて専門家の建物外観の印象評価を自動的に作成するAI外観印象評価モデルを構築し、新たな指標として不動産の価値との関係の検討を行う。具体的には、J-REITが保有しているオフィスビルとマンションを対象に物件の外観画像を取得し、専門家の外観印象評価にAIの画像認識技術を用いて、分類学習と線形学習を行い、AI外観印象評価モデルを作成する。結果として、VGG-16の転移学習によって、オフィスビル、マンションともに99%を超える高精度の予測モデルを作成することができた。また、モデルを用いて得られたAI外観印象評価と不動産価値の相関分析を行った結果、オフィスビルではAI外観印象評価と不動産価値の相関係数は0.410となり、やや相関がみられたことから関係がある可能性が示唆された。

【キーワード】AI、画像認識技術、建物外観、不動産価値、J-REIT
【Key Word】AI, Image Recognition Technology, Building Façade, Property Value, J-REIT

第二次世界大戦前後を通じてみた土地騰貴(市街地価格調査個票からの試算による)
―列島改造ブーム以前の記録を辿る(補論)―
The land property boom in Japan throughout the 1940s based on the micro-data of the Urban Land Price Index

近藤 共子

 1937年から日本勧業銀行が作成してきた市街地価格指数に関して、今般、調査開始から1948年迄の間について、個別調査地点の価格に立ち返り、第二次世界大戦前後を通じた地価の変動を試算した。さらに、終戦後、戦災復興院が調査した1940年代の売買による土地登記筆数の動向を合わせてみることで、例えば、1940年代前半、軍需工業都市等の工業地やその住宅地等を中心に土地価格が騰貴し、取引も活発化していたこと、終戦後のハイパーインフレの時期、戦禍を受けた都市と戦災を受けていない都市を比べると後者はより大きく高騰していたことなど、多様な状況が垣間みえた。市街地価格調査については、さらにデータ検証を続けるとともに1949年以降も含め試算し、我が国の都市化と都市縮退の100年間の記録として、将来につないでいくことは意義が大きい。

【キーワード】地価高騰、インフレ、市街地価格指数、戦災、軍需工業
Key Word】land property boom, inflation, urban land price index, war damages, munitions industry

判例研究(119)

抵当権者の物上代位に基づく賃料債権の差押えに対し、賃借人は将来の賃料債権の相殺をもって対抗できるか
-融資した信用金庫が建物の賃料から回収する手段と建物を賃借して老人ホームを経営する賃借人のリスク-

弁護士・武谷直人法律事務所 武谷 直人

 不動産につき、抵当権設定後に第三債務者が債務者に対する反対債権を取得し、債務者が第三債務者に対して有する将来債権を期限の利益を喪失させた上で相殺合意をしたとしても、その後抵当権者が債務者の有する債権を差し押さえた場合に、第三債務者は相殺合意によって当該債権が消滅したと主張することはできない。

【キーワード】民法304条、372条、物上代位、相殺合意、差押え

The Appraisal Journal(Issue1-2 2024)

海外不動産市場研究会

不動研だより

教育・研修に係る当研究所の取組み

企画部 次長 干場 浩平

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